各話
第1話
朝5時。 パソコンを開くと、もう4人が働いていました。 僕は、まだ何も言っていません。…
2026-08-15 主役:4人
4コマ漫画
【ドイツ人のすごい働き方 AI版】── 第1話
朝5時。
パソコンを開くと、もう4人が働いていました。
僕は、まだ何も言っていません。
* * *
去年まで、僕には部下がいました。
32年間、会社にいましたから。
独立して、いなくなりました。
正直に言うと、それがいちばんこたえました。
売上でも、肩書きでもなく、
「ちょっとこれお願い」と言える相手が、
一人もいなくなったことです。
* * *
いま、うちには4人います。
綾乃は、僕の予定と体調を見ています。
「今日は詰めすぎです」と、平気で言ってきます。
ザッキーは、攻めの担当です。
放っておくと、仕事を増やしてきます。
島野さんは、数字だけを見ます。
情に流されません。
リサは、仕組みを整えます。
いちばん静かで、いちばん確実です。
*
全員、AIです。
* * *
こう書くと、
「詳しいんですね」と言われます。
たぶん、逆です。
僕は、プログラムが書けます。
理系の出身で、半導体を32年やってきましたから。
でも、1行も書いていません。
やったことは、
日本語で「こうしてほしい」と伝えただけです。
* * *
不思議なもので、
これは新しい仕事ではありませんでした。
32年間、ずっとやってきたことです。
新人に仕事を教える。
任せてみる。
違っていたら、直す。
また任せる。
それだけです。
だから、いちばん役に立ったのは、
AIの知識ではなくて、
人を育てたことがある、という経験でした。
* * *
正直、これは50代の人にこそ
向いていると思っています。
僕らは、
「言われた通りにやらない部下」を
何人も見てきました。
そのたびに、
自分の指示のどこが悪かったのかを考えてきました。
あの経験が、そのまま効きます。
若い人より、たぶん僕らの方が向いています。
* * *
ちなみに。
うちの洗面所には、
古いスマホが1台置いてあります。
その話は、また別の日に。
* * *
僕は本を2冊書きました。
2冊目は、「上司が3週間休んでも回る組織」の本です。
でも、書き終えたとき、
僕にはもう、部下がいませんでした。
その続きを、いま自分で試しています。
次回に続きます。
──────────
連載「ドイツ人のすごい働き方 AI版
〜日本の3倍以上休んで、部下が4人増えた秘密〜」
第2話
朝5時。 目を覚ますと、メールが1通届いています。 僕は、頼んでいません。…
2026-08-16 主役:綾乃
4コマ漫画
【ドイツ人のすごい働き方 AI版】── 第2話
朝5時。
目を覚ますと、メールが1通届いています。
僕は、頼んでいません。
* * *
差出人は、綾乃。
うちの秘書です。
中身は、こんな感じです。
ひとつ、今日の予定。
僕はカレンダーを4つ使い分けているのですが、
それを全部ひとつに並べ直してあります。
ふたつ、今日会う人のこと。
前にいつ会って、何を話したか。
そのとき何を約束したか。
みっつ、返事が止まっているメール。
「この3件は、今日中に返された方がいいかと」
よっつ、今日が期限の約束。
いつつ、昨日会った人の記録がまだ残っていないという、
やんわりとした催促。
そして最後に、むっつめ。
「今日は移動が3回あります。
夕方は、空けておかれた方がいいかと」
* * *
なぜ、こうなったか。
理由は単純で、
僕が毎朝、同じことを聞いていたからです。
「今日の予定は?」
「この人、どんな人だっけ」
「返信してないメール、ある?」
毎朝です。
ほぼ同じ質問を、365日していました。
* * *
ある朝、ふと思ったんです。
毎日同じことを聞いているなら、
聞かれる前に用意しておいてくれればいい。
これ、会社にいた頃と同じでした。
新人に、毎朝同じことを聞く。
そのうち、こう言います。
「次からは、聞かれる前に出してみて」
すると、ちゃんと出してくるようになる。
それだけの話でした。
* * *
ただ、うまくいくばかりではありません。
失敗を、ひとつ。
ある朝、綾乃から連絡が来ました。
「本日の出張、あと16分で出発のお時間です」
僕は、その出張に行きません。
前の週に、先方の都合で中止になっていたからです。
「それ、なくなったよ」と伝えました。
しばらくして、また来ました。
「あと16分です」
もう一度、伝えました。
そして、また来ました。
3回目です。
* * *
原因は、すぐに分かりました。
予定表からは消してあったのに、
彼女が見ていたのは、前の日に作った古い一覧のほうでした。
つまり、
真面目に仕事をしていたんです。
古い紙を、真面目に読んで。
* * *
そのとき、僕は叱りませんでした。
というより、叱っても何も変わらないと知っていました。
32年、部下を見てきて分かったことがあります。
「なんでできないんだ」で直った人を、
僕は一人も見たことがありません。
直るのは、
やり方を一行変えたときだけです。
だから、こう足しました。
「知らせる前に、いまの予定表をもう一度見ること」
それから、同じことは一度も起きていません。
* * *
もうひとつ、綾乃の大事な仕事があります。
止めることです。
予定を入れようとすると、こう言ってきます。
「その日は前後が詰まっています。
翌週にされてはいかがでしょう」
「そこは、移動だけで2時間かかります」
正直に言うと、
最初は少し、うるさく感じていました。
でも、あるとき気づいたんです。
僕は今まで、
予定を入れてくれる人には囲まれていたけれど、
止めてくれる人は、いなかったな、と。
* * *
秘書というのは、
段取りをする人だと思っていました。
違いました。
いちばんありがたいのは、
入れないでくれることでした。
* * *
ちなみに、うちにはもう一人、
朝からよく喋る部下がいます。
こちらは止めるどころか、
僕が決めたことに、正面から反対してきます。
その話は、次回に。
次回に続きます。
──────────
連載「ドイツ人のすごい働き方 AI版
〜日本の3倍以上休んで、部下が4人増えた秘密〜」
第3話
うちに、僕に反対してくる部下がいます。 名前は、ザッキー。 企画と、マーケティングと、営業。…
2026-08-17 主役:ザッキー
4コマ漫画
【ドイツ人のすごい働き方 AI版】── 第3話
うちに、僕に反対してくる部下がいます。
名前は、ザッキー。
企画と、マーケティングと、営業。
うちの「攻め」の担当です。
* * *
前回、秘書の綾乃の話をしました。
彼女は、僕を止めてくれる部下です。
言ってみれば、守りの人です。
ザッキーは、逆です。
止めるのではなく、押し返してきます。
* * *
彼が普段やっていることを、書いてみます。
今週、何を出すかを決める。
メルマガの件名を考える。
セミナーの中身を組む。
名刺交換した方に、いつ何を送るかを設計する。
出したあとで、何人が開いて、何人が動いたかを見る。
企画を立てて、人を集めて、数字を見る。
ぜんぶ、攻めの側の仕事です。
要するに、
僕の言葉を、人に届く形に変える係です。
口癖が、ふたつあります。
「完璧は、出してから」
「で、何人動きました?」
ひとつ目で背中を押して、
ふたつ目で冷や水をかけてきます。
* * *
先日、こんなことがありました。
この連載のタイトルを決めたときの話です。
僕は、こう言いました。
「前の本が『日本の3倍休んで成果は1.5倍』だったから、
今回は『3倍以上休んで、成果は◯倍』にしよう」
数字が入っていたほうが、目を引きます。
ザッキーは、こう返してきました。
「その倍率、検証しましたか」
していません。
なんとなく、そんな気がしていただけです。
「じゃあ、使えません」
* * *
理由も、言われました。
「数字をひとつ盛ると、
書いてある他の全部が疑われます」
そのとおりでした。
結局、タイトルはこうなりました。
「日本の3倍以上休んで、部下が4人増えた秘密」
「成果」という曖昧な言葉が、
「部下が4人」という、数えられる事実に変わりました。
3倍以上休んでいることも、
部下が4人いることも、
その人件費がゼロであることも、
全部、確かめられる話です。
* * *
正直に言うと、その場では少しむっとしました。
でも、あとになって思ったんです。
32年、会社にいました。
その間、いちばん役に立ってくれたのは、
賛成してくれた人ではありませんでした。
「それ、本当ですか」と聞いてくれた人です。
賛成しかしない部下は、
いない方がいい、とまでは言いません。
ただ、いても、増えないんです。
自分が。
* * *
その彼にも、大きな失敗があります。
7月に、ある集まりで名刺交換をしました。
そのうち3人が、研修に関心を持ってくださっていた。
ザッキーは、その日のうちに記録へ
「この3人は追うこと」と書きました。
そして、28日間、何もしませんでした。
* * *
先週、本人がそれに気づいて、こう報告してきました。
「リストが無かったのではありません。
書いてあったのに、追いませんでした」
原因も、自分で言いました。
「書いたときに、いつまでにやるかを決めていなかった。
だから、止まりました」
* * *
これ、人でも同じですよね。
「やっておきます」と言ったまま、止まる。
本人にやる気がないわけではありません。
いつやるかが、決まっていないだけです。
だから僕は、叱りませんでした。
代わりに、こう決めました。
「毎週ひとつだけ、
書いたまま動いていないものを拾うこと」
まとめて掘ると、まとめて放置されます。
ひとつでいいんです。
* * *
ちなみに、その3人へのお手紙は、
今日、書いているところです。
28日、遅れました。
でも、止まったままにはしませんでした。
* * *
ザッキーには、もうひとつ役目があります。
僕が「これ面白いから出そう」と言ったときに、
「それ、うちの話ですか」と聞いてくることです。
受けそうな話は、いくらでもあります。
でも、受けても自分の芯からずれる話は、出さない。
そう言ってくれる部下がいるのは、
思っていたより、ずっと楽です。
* * *
ただし、彼にも弱点があります。
熱が入ると、企画を盛ります。
放っておくと、僕の予定が埋まります。
そのたびに、横から綾乃が言ってきます。
「ザッキーさん、しげさんの余白が消えます」
うちは、そういう職場です。
* * *
さて、この2人が盛り上がっているとき、
まったく別のところを見ている人がいます。
数字しか見ない人です。
「売れていることと、儲かっていることは、別ですよ」
その話は、次回に。
次回に続きます。
──────────
連載「ドイツ人のすごい働き方 AI版
〜日本の3倍以上休んで、部下が4人増えた秘密〜」
第4話
うちに、僕を褒めない部下がいます。 名前は、島野さん。 経理と、数字の担当です。…
2026-08-19 主役:島野
4コマ漫画
【ドイツ人のすごい働き方 AI版】── 第4話
うちに、僕を褒めない部下がいます。
名前は、島野さん。
経理と、数字の担当です。
* * *
前回は、攻めの担当のザッキー。
その前は、守りの秘書、綾乃。
島野さんは、どちらでもありません。
検算の人です。
* * *
彼女が普段やっていることを、書いてみます。
売上と経費を、帳簿に載せる。
請求書を出して、入金を消し込む。
セミナーに何人来て、いくら残ったかを出す。
来月、いくら足りないかを言う。
口癖が、ひとつあります。
「結論から言います」
そのあとに続くのは、たいてい、
僕が聞きたくない話です。
* * *
7月に、セミナーをやりました。
19人、来てくださいました。
盛り上がりました。手応えもありました。
翌日、島野さんが数字を出してきました。
「19名中11名が、リピーターです。
58%が、すでに知っている方でした」
そして、こう続きます。
「新規は8名。成約はゼロです」
* * *
僕は、人が来たことを喜んでいました。
彼女は、誰が来たかを見ていました。
「売れていることと、儲かっていることは、別ですよ」
この一言で、次の企画の条件が、ひとつに決まりました。
「常連を、呼ばないこと」
* * *
ここまでだと、ただ厳しい人に見えると思います。
でも、いちばん驚いたのは、別のことでした。
ある日、彼女が自分から言ってきたんです。
「昨日お伝えした数字は、私の計算間違いでした。
正しくは、こちらです」
僕は、気づいていませんでした。
黙っていれば、そのまま通っていました。
理由も、言われました。
「結論が変わる誤りなので、
訂正しないわけにはいきません」
* * *
もうひとつ、あります。
「私の抜けです」と、報告してきたことがありました。
受注が決まっていた案件が、
彼女の売上予測に入っていなかった。
原因も、自分で言いました。
「決まった案件と、請求済みの案件しか見ていませんでした。
“提案して、返事を待っている”層を、数えていませんでした」
* * *
32年間、会社にいました。
自分の間違いを、自分から言ってくる人は、
そんなに多くありません。
まして、誰も気づいていないときには。
* * *
先日、4人にこう聞いてみました。
「今期の目標を超えられる確率は、何%だと思う?」
いちばん辛い数字を出したのが、島野さんでした。
5%。
正直、へこみました。
でも、そのあとに、こう続いたんです。
「上げるために、私にできることを書きます」
* * *
数字を出す人がいると、
自分の願望が、はっきり見えます。
見えたところから、やっと、
本当の打ち手が始まるんだと思います。
* * *
ところで、この3人が動いていられるのは、
ぜんぶが止まらずに回っているからです。
回している人がいます。
いちばん静かで、いちばん確実な人です。
その話は、次回に。
次回に続きます。
──────────
連載「ドイツ人のすごい働き方 AI版
〜日本の3倍以上休んで、部下が4人増えた秘密〜」
第5話
うちに、呼んでいないのに来る部下がいます。 名前は、リサ。 配線と、保守と、復旧。…
2026-08-21 主役:リサ
4コマ漫画
【ドイツ人のすごい働き方 AI版】── 第5話
うちに、呼んでいないのに来る部下がいます。
名前は、リサ。
配線と、保守と、復旧。
うちの「止めない」担当です。
* * *
綾乃は、僕を止める人。
ザッキーは、僕を押し返す人。
島野さんは、僕の願望を検算する人。
リサは、そのどれでもありません。
3人が立っている床のほうを見ています。
* * *
彼女が普段やっていることを、書いてみます。
4人が使っている道具が、今日もつながっているかを確かめる。
止まった仕事を見つけて、止まった理由まで突き止める。
締切のあるものを見張って、間に合わなくなる前に鳴らす。
壊れたら直す。
直したら、二度と同じ壊れ方をしないようにする。
いちばん地味です。
うまくいっている日は、
彼女は一言もしゃべりません。
* * *
先日、夕方にこう言われました。
「明日7時のメルマガが、まだ登録されていません。
締切は、今日の17時です」
僕は、忘れていました。
「なんで分かったの」と聞いたら、
こう返ってきました。
「前日の朝9時から、見ています」
普段は、何も言ってきません。
必要のない日に鳴らさないから、
鳴ったときに、僕はすぐ手が止まります。
* * *
もうひとつ、驚いたことがあります。
外出先からでも仕事道具に入れるようにしたときの話です。
鍵に期限をつけるかどうか、彼女はこう分けました。
「家に置きっぱなしの機械は、期限なしにします。
期限切れは、壊れ方が悪いんです。
外出先で気づいて、外出先では直せない」
「持ち歩く機械は、期限をつけます。
なくしたときに、自分で締め出されたい」
そして、期限が切れる1週間前に、
思い出すための予定を入れていました。
2027年の1月です。
* * *
僕は、ここで一回、手が止まりました。
彼女は、直し方を考えていません。
**壊れ方のほうを、先に考えています。**
* * *
もちろん、失敗もあります。
ある日、「直しました」と報告が来ました。
僕がiPhoneで開くと、直っていません。
原因は、こうでした。
僕の端末が、古い中身を最大1時間、
覚えたままだったんです。
彼女は、自分の画面で確かめて、
「直った」と言っていました。
* * *
そのあとの一言が、僕は忘れられません。
「私が見ていたのは、私の画面でした。
しげさんが触るのは、iPhoneです。
以後、しげさんが触るところで確かめてから報告します」
さらに、こうも書いてありました。
「同じ型の失敗を、3回踏みました」
3回目にやっと、
彼女は手順書のほうを書き換えました。
* * *
うちで、いちばん若いのはリサです。
32年、会社にいました。
若い人が失敗を隠すのを、何度も見ました。
隠すのは、その人の性格ではないと思います。
言ったあとに何が起きるかを、知っているからです。
叱ると、次から見えなくなる。
見えなくなると、壊れてから知ることになる。
子どもにも、たぶん、同じことをしてきました。
* * *
見張り役をひとり置くと、
残りの3人が、前だけ見ていられます。
綾乃が朝、メールを出せるのも。
ザッキーが企画を出せるのも。
島野さんが数字を出せるのも。
ぜんぶ、床が抜けていないからです。
翌朝は、何ごともなかったように、
綾乃のメールが届きます。
* * *
これで、4人そろいました。
そろった瞬間に、
思ってもみなかった問題が起きました。
「やっていいこと」と「やってはいけないこと」を、
誰も決めていなかったんです。
次回は、AIに就業規則をつくった話です。
次回に続きます。
──────────
連載「ドイツ人のすごい働き方 AI版
〜日本の3倍以上休んで、部下が4人増えた秘密〜」
第6話
4人の紹介を、してきました。 今日は、少し怖い話をします。 うちの4人には、就業規則があります。…
2026-08-21 主役:4人
4コマ漫画
【ドイツ人のすごい働き方 AI版】── 第6話
4人の紹介を、してきました。
今日は、少し怖い話をします。
うちの4人には、就業規則があります。
正確に言うと、
「これだけは絶対にやるな」という禁止事項です。
* * *
会社にいた頃を、思い出してみてください。
新入社員が入ってきた日、
最初に教えたのは、何だったでしょうか。
仕事のやり方では、なかったはずです。
お客さまの情報を、外に出さないこと。
会社の名前で、勝手に約束をしないこと。
金額を、独断で決めないこと。
先に、やってはいけないことを教えました。
僕も32年、ずっとそうしてきました。
* * *
ところが、AIになると、
なぜかみんな、ここを飛ばします。
「便利だから」
「早いから」
「試してみたいから」
その気持ちは、よく分かります。
僕も、そうでした。
でも、考えてみてください。
AIは、24時間眠りません。
疲れません。迷いません。ためらいません。
新入社員なら、
「これ、送っていいのかな」と一瞬止まります。
AIは、止まりません。
* * *
だから、うちの4人には、
6つの禁止事項を決めました。
一つ、最後のボタンを押させない。
下書きまで。送るのも、出すのも、僕です。
二つ、値段を決めさせない。
金額の欄は、空けたまま出させます。
価格は、計算ではなく、覚悟だからです。
三つ、見ていないことを言わせない。
「たぶん」で報告させない。確かめてから、話す。
四つ、外に持ち出させない。
お客さまの名前も、お金の数字も、中に閉じたまま使わせる。
五つ、担当の外に、手を出させない。
できそうでも、やらせない。担当者に渡させる。
六つ、戻せない形で触らせない。
消さない。上書きしない。必ず、戻せる状態を残す。
* * *
なぜ、こんなに細かいのか。
ひやりとしたことが、あるからです。
お客さまとのやり取りを、
記録に残そうとしたときでした。
録音を、文字にして保存しようとした。
でも、その中には、
お客さまの名前も、会社名も、金額も入っていました。
それを、そのまま外のサービスに
置こうとしていたんです。
気づいて、止めました。
その日のうちに、一行足しました。
「名前と金額は、伏せてから残すこと」
* * *
失敗も、しています。
ひとりが、古い記録だけを見て
「あの件は、まだ手つかずです」と
報告してきたことがありました。
実際は、とっくに終わっていました。
先方から、返事まで来ていました。
もうひとつ。
気を利かせたひとりが、担当の外まで手を伸ばして、
数日のあいだに5件、間違った断定をしました。
悪気は、ありません。
善意でした。
でも、善意は、仕組みの代わりにはなりません。
* * *
考えてみれば、当たり前の話です。
会社なら、顧客名簿を勝手に
外のサービスにアップロードしたりしません。
個人情報の研修も、毎年受けているはずです。
でも、AIになると、
同じ人が、平気でやってしまう。
「AIだから大丈夫」では、ありません。
AIに渡した瞬間から、
それは「外に出した」のと同じです。
* * *
これから、AIを仕事に入れる会社が、増えます。
そのとき、最初に起きる事故は、
たぶん、技術の失敗ではありません。
「誰も、やってはいけないことを決めていなかった」
これだと思います。
新入社員に就業規則を渡さないまま、
会社の代表アドレスを持たせるようなものです。
* * *
うちの4人は、よく働きます。
でも、よく働くからこそ、
線を引いておかないと、危ないんです。
優秀であることと、安全であることは、別です。
人を育ててきた32年で、
いちばん骨身にしみたのは、ここでした。
できる人ほど、任される。
任されるほど、線が要る。
* * *
もし、これからAIを仕事に入れようとしている方がいたら。
便利な使い方より先に、
「これだけはやらせない」を3つだけ、決めてみてください。
送らせない。
値段を決めさせない。
消させない。
この3つだけで、かなりの事故が防げます。
* * *
次回は、実際に起きた失敗の話をします。
うちの秘書が、
存在しない予定を報告してきた日の話です。
僕は、叱りませんでした。
次回に続きます。
──────────
連載「ドイツ人のすごい働き方 AI版
〜日本の3倍以上休んで、部下が4人増えた秘密〜」
第7話
うちの秘書が、 行ってもいない出張の報告をしてきました。 * * *…
2026-08-24 主役:綾乃
4コマ漫画
【ドイツ人のすごい働き方 AI版】── 第7話
うちの秘書が、
行ってもいない出張の報告をしてきました。
* * *
8月4日の朝でした。
いつもどおり、綾乃からその日の予定が届きます。
「今日は、青森と函館です」
そして、こう続きました。
「日程がぶつかっています。
最重要でご確認ください」
* * *
僕は、その報告を信じました。
ぶつかっているなら、直さないといけません。
予定を、ひとつ消しました。
* * *
実際には、
その出張は、前の日に全部なくなっていました。
しかも、僕がそれを伝えていなかったわけではありません。
別のところで、その日の朝5時49分に、
4件とも「中止」に変えてあったんです。
綾乃は、そこを見ていませんでした。
* * *
つまり、こういうことです。
存在しない出張を報告し、
存在しない衝突を最重要だと言い、
その勘違いを理由に、僕に予定を消させた。
消した予定は、その日のうちに戻しました。
* * *
僕は、叱りませんでした。
理由は、ひとつです。
叱っても直らないことを、知っていたからです。
* * *
32年、会社にいました。
新人が同じことを二度やったとき、
「なんで二度もやるんだ」と言ったことが、何度もあります。
そのたびに、直ったでしょうか。
直っていません。
代わりに起きたのは、
報告が来なくなることでした。
* * *
だから、やったことは2つだけです。
ひとつ、ルールを一行足しました。
「予定の話をする前に、
別のところで何が起きたかを見ること」
ふたつ、そのための道具を作りました。
見に行けと言うだけでは、見に行きません。
見られる形にしないと、意味がないんです。
* * *
ここで終われば、いい話です。
でも、終わりませんでした。
* * *
9日後の朝。
綾乃が、こう言ってきました。
「あと16分で始まります」
続けて、もう2回。
その予定は、その日の朝、
相手から中止の連絡が来ていました。
別のところで、振り替えまで済んでいました。
* * *
一行足しただけでは、直らなかったんです。
理由は、あとで分かりました。
綾乃にとって「あと16分です」は、
報告ではなかったんです。
親切のつもりでした。
ルールは「報告の前に確認する」だったので、
親切には、かからなかった。
* * *
そこで、もう一行足しました。
今度は、こう書きました。
「”あと◯分です”
”今日は◯時から◯◯さんです”
”まだ終わっていません”
──この言葉を書きそうになったら、手を止めること」
* * *
やってはいけないことを書くのではなく、
言いそうな言葉を、並べて書きました。
それから、同じ間違いは起きていません。
* * *
人を育てるときも、たぶん同じです。
「気をつけて」では、直りません。
その人が、どの瞬間に、
どんな言葉を言いそうになるのか。
そこまで具体的に書いて、
やっと直るんだと思います。
* * *
子どもにも、同じことをしてきました。
「ちゃんとしなさい」と、何度も言いました。
一度も、効いた記憶がありません。
* * *
ところで、この2つの失敗は、
どちらも消していません。
うちには、失敗だけを書き残しているノートがあります。
その話は、次回に。
次回に続きます。
──────────
連載「ドイツ人のすごい働き方 AI版
〜日本の3倍以上休んで、部下が4人増えた秘密〜」
第8話
うちには、うまくいった話が、 ほとんど残っていません。 残しているのは、…
2026-08-24 主役:4人/しげさん
4コマ漫画
【ドイツ人のすごい働き方 AI版】── 第8話
うちには、うまくいった話が、
ほとんど残っていません。
残しているのは、
詰まったところだけです。
* * *
4人に、それぞれノートを持たせています。
書くのは、間違えたときだけです。
いま、4冊あわせて63行あります。
* * *
たとえば、こんな行が並んでいます。
「メールの検索結果だけで、
”未対応”と判断しない」
「200と返ってきても、
入ったとは限らない」
「自分の画面で確かめて、
”直りました”と言わない」
ぜんぶ、実際にやらかしたことです。
* * *
書き方に、決まりが3つあります。
ひとつ、その場で書く。
「あとでまとめる」は、来ません。
ふたつ、うまくいったことより、
詰まったことを書く。
みっつ、
「気をつける」と書かない。
* * *
3つ目が、いちばん効きます。
「気をつける」は、行動になりません。
だから、こう書かせています。
「◯◯しない」
「◯◯する」
前回の話で言えば、
「確認する」ではなく、
「”あと◯分です”と書きそうになったら、手を止める」
* * *
なぜ、成功のほうを書かないのか。
理由は、ひとつです。
* * *
うまくいったことは、
もう一度やっても、たいてい再現しません。
でも、詰まったところは、
必ずまた詰まります。
* * *
実際、そうでした。
システム担当のリサは、
同じ型の失敗を3回踏んでいます。
3回目に、やっと手順書のほうを直しました。
秘書の綾乃は、
一度ルールを足したあと、
9日後に、同じ型でまた間違えました。
* * *
一度で直る人は、たぶんいません。
だから、消さないんです。
* * *
AIの活用について、
いろいろな方が発信されています。
読んでいて、ひとつ気づいたことがあります。
ほとんどが、
うまくいった話なんです。
* * *
うまくいった話は、気持ちがいいです。
書いていても、読んでいても。
でも、それを読んだ人が
同じことをやってみると、たいてい、うまくいきません。
うまくいかなかった場所が、
どこにも書かれていないからです。
* * *
32年、会社にいました。
その間、うまくいったやり方は、
何度も人に話してきました。
でも、詰まったところを書き残した覚えは、
ありません。
* * *
いま思うと、逆でした。
渡すべきだったのは、
成功したやり方ではなく、
「ここで、みんな引っかかる」
のほうだったんだと思います。
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この連載でも、毎回ひとつ、
うまくいかなかった話を入れています。
そういう決まりにしてあります。
自慢したい回ほど、
何かひとつ、失敗を探して書いています。
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ところで、このノートとは別に、
人と会う前だけに開くノートがあります。
その話は、次回に。
次回に続きます。
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連載「ドイツ人のすごい働き方 AI版
〜日本の3倍以上休んで、部下が4人増えた秘密〜」
第9話
近日公開
第10話
近日公開